公益社団法人酒田青年会議所 2018年度 理事長所信

はじめに

公益社団法人酒田青年会議所
第52代理事長 後藤 守

この世の中は悲しみで溢れている。
戦争やテロリズム、そして貧困。悲しみを和らげたい。人生でもっとも悲しいことは何だろう。身近な人の死や孤独、そして絶望。このまちにも悲しみが溢れている。喜びを大きくしたい。人生で最も幸せを感じる事ってどんな事なのだろう。日々生きていることや自己実現、愛し愛されることや必要とされること、そしてその先にある笑顔。幸せとは感動することで実感することができる。見る感動や出会う感動、愛し合う感動や学ぶ感動、そして遊ぶ感動。私たちJAYCEEには使命がある。使命とは命を使うことである。何に大切な命を使うのか。私たちJAYCEEは、市民の意識を変革し、世論を喚起し、政治を動かし、明るい豊かな社会の実現を目指す団体であり、事業を通して喜びを増やし、人々を幸せにすることが出来る。青年経済人として。責任世代青年の代表として。

原体験を活かす

私はこのまちに生まれ、17歳で音楽専門学校入学と同時に上京しました。その後、アメリカへと留学しましたが、音楽を職業にすることに疑問を持ち、その道を断ちました。18歳から23歳まで約50種類以上の仕事を経験し、その後起業を決意しました。健康産業がこれからの基幹産業になると予測し、フランチャイズ展開を始めたばかりの企業の東北・北海道地域初の代理店として、地元に帰り起業しました。2年間個人事業を営み、25歳で会社を設立し、代理店を複数展開し、会員数を伸ばし、史上初の売上記録を何度も樹立しました。しかし、従業員の大量退職や店舗数の縮小、また膨大な借金を背負い、思考錯誤を繰り返しましたが、倒産寸前まで追い込まれました。そんな最中、社会起業家のある人と出逢いました。正に「良質な情報との出逢いは人生を根底から変える時がある」ということを身をもって体験しました。価値観を見直し、マネジメントを変え、軌道修正して行きながら、能力開発、自己啓発で自分に多くの投資を行い、源泉を求めてインドに渡り、学校を卒業しました。この一連の経験の中から人生理念として定めた、「関わる方々の人生の質の向上に寄与する」を具現化する為に、2011年新たな会社を設立し、関連会社を海外に設立したり、他会社の社外取締役や執行役員として様々なベンチャーを手掛けながら、「世の中にニーズを創り出していく真のイノベーター」として、社会問題・世の中の問題を事業を通して解決することに全精力を注いでいます。これが、私の今の自分に自信を与えることが出来る経験。いわゆる原体験です。人は誰にでも原体験があり、それを心の拠り所にして困難に直面した時に乗り越える力に変え、生きています。誰もが持つこの原体験を活かすとともに人生の先輩達が汗と涙を流して継承して下さったJCという社会を変革する団体を活用させていただき、このまちに山積する様々な問題を解決へと導きながら、市民全員で力強く明るい豊かな未来に向かって歩んで参ります。
悲しみを減らし喜びを増やす。
原体験からしか生まれない新たなまちの創造を目指して。

「まち」とは、そこに住み暮らす「ひと」である

「まちづくり」とは、単なる空間の創造や機構の設立だけではなく、社会・経済・文化・環境といった生活の根に繋がるものを構成するあらゆるファクターをも含めた、まちの住民の暮らしそのものの創造です。市民が直面する様々な問題を解決するための活動を含めた総合的な行為によって実現されるものであり、生活を取り巻くあらゆる要素を総合的に検討・判断し、多角的・サスティナブルな活動・運動を通して、真に豊かなまちの暮らしを創造して行くことこそが「まちづくり」です。私たちの住み暮らすまちは、最上川舟運と北前船交易の結節点である港町として、港から市内中心部にかけて往時の歴史を感じさせる多くの資源を有しており、山形県最高峰鳥海山、母なる川、最上川の河口に開けた肥沃な大地と日本海に面したこの地域は、飛島なども含めた固有の地形・地質をもち、その大地が育んだ里地里山の豊かな生態系や食資源など、山岳信仰とともに、河川と日本海交易の財の蓄積をもとに発展してきた豊かな暮らしの文化や産業が積層しています。また、豪商本間家は累代にわたり、公益的な活動を実践してきました。「世のため、人のために尽くす」この公益の精神は、今でもこのまちに住み暮らす人々におもてなしの心として育まれています。そして、毎年多くの市民の心が一つになる酒田まつりは、上下日枝神社の例大祭、山王まつりとして、慶長14年(1609年)から一度も休むことなく、まちの歴史・伝統・文化そして心の全てが大切に引き継がれてきました。このまちに住み暮らす一人ひとりの物事に対する最も重要な心の持ち方である、精神的根幹にあるものはまさに、「交易と公益の精神」です。大切なことは、このまちの問題・課題を市民全員が自分事として捉え、力を合わせて住み暮らすこのまちをサスティナブルに創っていく事です。人格と市民道徳を運動の基盤としている私たちJCは市民全員とコラボレートするとともに、まち全体をマネジメントして「市民全員の心が1つになる瞬間」を創出して悲しみを減らし喜びを増やします。

関わる方々の人生の質の向上に寄与する

私たちは一人で生きているのではなく、他の人々との関わり合いの中で生活しています。
集団の中で生きており、集団が機能するためには、中心となる人間の存在が不可欠です。
そして、その集団の機能が高いか否かは、リーダーの質にかかっていると同時にそのメンバーの質にかかっています。私たちは、あらゆる集団において何かを成し得る人間になるために、自分自身の中に良きリーダーシップと良きフォロワーシップを確立すべく、常日頃から努力するとともに、お互いを動機づけ、刺激し合う中から切磋琢磨し、各自の隠された能力を開発しながら、人に夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っている素晴らしい、生きる力を湧き出させ、発展や改革に必要な力である、エンパワーメントを進め、原体験を十分に活かし、人格形成していくことが大切です。リーダーシップ能力の開発とは、身体(健康)、心理学(人間学)、職業、価値、教養に対する知識を習得するとともに、プライオリティーマネジメント、コミュニケーション、ヒューマンリレーション、タイムマネジメント、ネゴシエーション、ディシジョンメイキング、マネジメントのスキルを通して民主的な集団指導力と集団運営能力の研究と実践をすることです。会員個人が優れた市民・職業人であるために、自らを厳しく訓練し、さらに、市民社会の中にあって、市民を目標に向けて一致協力するように働きかけながら市民と共に歩む。その全過程がリーダーシップ能力の開発です。社会正義に反することなく、他の人々の基本的欲求充足の手助けをしながら、自ら定めた目的・目標を達成していく道程が、私たちJCのリーダーシップ能力の開発する価値です。人は成長した分だけ人へそしてまちへ貢献することが出来ます。原体験を十分に活かし、常に成長を求め、リーダーシップ能力を開発し、人間力を高め、自分と関わった全ての方々に対して人生の質が向上できたと思っていただけるように、「関わる方々の人生の質の向上に寄与する」という精神を持ち、人とまちに貢献して悲しみを減らし喜びを増やします。

子どもたちに人生のターニングポイントとなる機会を提供する

私たちは責任世代青年の代表として、人類の先頭に立って時代を創り上げていくという覚悟をもって常に何事にも挑戦し、「世の中にニーズを創り出していく真のイノベーター」として世の中に山積する問題を解決へと導いていかなくてはなりません。大人が変われば子どもが変わり、子どもが変われば未来が変わる。私たち大人が知っていることや経験したことは、原体験として子どもたちに伝えて行く義務があります。また、逆を言えば知らないことや体験したことがないことは伝えることが出来ません。誰よりも知り、経験して、子どもたちに伝えて行くことが出来なければ、未来を変えていくことは出来ないということになります。私たちは青少年を育成していくにあたり、近年失われつつある幅広い世代間のつながりや地域コミュニティの醸成をするとともに、様々な年代と共に行動することで得られる人間性を高め、自分たちのまちは自分たちが創るという主体的な意識をもち、人生設計、将来の展望と方向性を決定づけ、周りの大人たちに影響を与え、学校教育、家庭教育の枠を超えて社会で教育するという意識の醸成をしていく必要があります。また、現状の問題・課題を共に考え解決へと導く問題解決能力は勿論のこと、大人の視点では想像もつかない新しく若い視点からのロジカルシンキングやプロジェクトマネジメントによる新たな発想でまちを創るために、行政に対して提言を行います。共に同じ目的・目標に向かう未来を変革する素晴らしい仲間との出逢いは原体験となり、必ずまちの未来にインパクトをもたらします。不確定要素が増すこの社会において、子どもたちの人生の進路について大人は確実な答えを持てません。私たち大人に出来る事はただ一つ、自分の未来を自分で決めることが出来るように「人生のターニングポイントとなる機会」を提供する事だけです。私たちは、これからのまちの未来を担う子どもたちと共に輝くまちの未来を創造して悲しみを減らし喜びを増やします。

「まち」の2040年を考え行動を起こす

人間の一番強い力は、現状維持をしようとする力です。多くの人間は昨日の延長線で明日を考え、このままの日常がいつまでも続いていくと信じて生活しています。未来に対する情報を様々なメディアから取得し、楽観的または悲観的に考えたりします。でもそれらの多くは、川の流れに例えれば中流、下流の濁ったものが多く、源泉にはほど遠いものばかりです。どこで情報を取得したとしても、源泉を確認するとともに、時間軸で考えるだけでは解決出来ない問題に対して、固定概念を捨て、常識を疑い、価値観の肯定的変化である「パラダイムシフト」を行いながら、次の世代の事、来るべくして来る未来のことを考えて行動することが大切です。私たちの住み暮らすまちは、進学、就職などで転出する若者も多く、平均賃金も首都圏平均605万円、全国平均420万円に対し、酒田市は260万円ということも関係して、特に首都圏への転出により社会減が進み、転出に対して転入がわずか30%です。また、人口置換水準2.07人に対して、合計特殊出生率が1.54人と自然減も進み、これから迎える2040年は、酒田市の人口が今よりも36%ダウンの71,130人、遊佐町の人口が今よりも39%ダウンの8,396人になると予測されています。そして、2035年まで老年人口が増加し、2040年には生産年齢人口1.1人で老年人口1人を支える状況になることも予測されています。さらに、有効求人倍率全国平均1.48倍に対して、酒田市は1.72倍、完全失業率は全国平均3.1%に対して、酒田市は5.7%の現状や、現在増え続けている介護クライシスに対する問題、2045年に起こるとされている、人工知能が人間の能力を超えることで起こる技術的特異点である、「シンギュラリティー問題」もあり、人口減少に対する問題だけではなく、就労に対しても様々な問題が起こることが予測出来ます。また、現在の小学生の65%が、現在世の中に存在していない職業に就くとも言われており、一部の専門家の意見に一喜一憂するのではなく、市民全員が自分事として捉え、今先を見据え、自分たちの未来は自分たちで創るという覚悟を持って行動に移す必要があります。誰かが予測した不安を感じる未来に対して、自分たちでより具体的で鮮明な未来像を創るとともに、市民全員に対してニーズを喚起し、行政に提言を行うなどの具体的なアクションをおこして行くことで悲しみを減らし喜びを増やします。

酒田JCの向かうべき方向性を考え行動する

「ミレニアル世代」に代表される、ネットコミュニティを操り、不特定多数の人々と瞬時に繋がることで新たな事業や組織を創り出し、従来の常識や価値観にとらわれない考え方や行動力によって、世界を一変させる可能性を秘めている世代がJCの中核を担う時代になり始めました。前の世代、いわばテレビ世代の人々が、高度産業社会を築き上げたと同じように、高速ネット回線で囲まれた時代に生まれ育ったこの世代が新たな時代を切り拓くと考えられています。酒田JCメンバーは現在平均年齢36.4歳であり、日本JCの平均年齢35歳よりも平均年齢が高く、卒業年齢である40歳まで活動期間が少ないのが現状です。「ミレニアル世代」を理解し、時代に適合した組織体系を目指して行く必要があります。また、現在サラリーマン会員が会員全体の40%であり、日本JCの33%よりも割合が高いため、今後の組織体系を考え、輩出企業への具体的なアクションも必要であると考えます。さらに、NPO、NGOなどの他団体が活躍する時代となり、JCの価値を更に高めて行かなければ、差別化が困難であるということも現状です。JCだから出来る事、JCにしか出来ないことをメンバー、市民に理解していただくとともに、他団体とのコラボレートとコネクトを行い、ピラミッド型の段階的組織構造のヒエラルキーと包括的で緩やかな横の繋がりのホリスティックを融合させ、人間の多様性を尊重するインクルーシブかつ有機的であること。さらに、性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで、目的を達成するためのマネジメントを用いたダイバーシティ的組織体系を目指します。酒田市・遊佐町中の行動を起こす準備のできた力ある情熱的な対象となる市民と志を一つにして、住み暮らすこのまちのために、原因の把握に基づく確実な認識である知識、その知識を消化させて自分事として捉え自分のものにする見識、その見識に決断力と判断力を加えた実行させていく能力である胆識を身につけ、何事にも率先して行動する圧倒的な行動力と、具体的な問題解決能力を兼ね備えた「唯一無二の団体」となり悲しみを減らし喜びを増やします。

独自性の価値を持つ団体となる

時代の流れやトレンドによるニーズの変化、また他団体NPO、NGOの出現など、刻々と変わる状況に対応するために、変えていくものと残すものを見分ける英知、変えるべきものを変えるためにチャレンジする勇気、変えてはならないものを受け入れる情熱をもとにJCブランドも新陳代謝を繰り返してきました。しかし、そのどの場面においても焦点は、「明るい豊かな社会の実現」に合わせられており、時を経て蓄積されたそれらの無形資産が消失・分散されることの無いよう、JCによって注意深く計画・管理されて来ました。市民は、様々な機会やメディアなどを通じて事業情報と接触する他、口コミや知人を通じて事業に参加します。これらの一連の中に参加者の意識を変革するインパクトと満足や価値がある時、JCはユーザーエクスペリエンスをもたらす団体として記憶され、更なる注意が向けられるようになり情報収集と事業参加を繰り返すという循環が生まれます。JCと市民の間に事業を通じて出来た体験を伴う良い関係が、JCに対する共感や信頼を育て、市民の事業に対する常連化が起こり、徐々に市民の頭の中にJCのブランドイメージという行動を決定する力を持つ「概念上の価値」が構築されていきます。ブランディングは精神的な構造を創り出すこと、市民が意思決定を単純化出来るようにJCや事業についての知識を整理することや、ターゲットの選定やポジショニングなどの重要性と同様、市民の立場に立った誠実でわかりやすいコミュニケーションがJCブランドへの共感を育成する上で重要です。また、防災という誰もが当たり前に生活の一部にしなければならないものを通じて、ステークホルダーとコラボレートやコネクトを行い、その一連の中でJCの運動を広め、市民全員にJCの価値を伝え、ステークホルダーの塊であるこの社会の中で「独自性の価値」を持つ団体となり悲しみを減らし喜びを増やします。

最後に

私たちは、何も持たずにこの世に生まれ、何も持たずにこの世を去る。しかし、関わる多くの人々や住み暮らすこのまちに生きた証を刻むことができる。事業を通して喜びを増やし、人々を幸せにすることができる、悲しみを減らすことができる。今しかできないことがある。

自分にしかできないことがある。原体験からしか生まれない新たなまちの創造を目指して。
責任世代青年の代表として、あらゆる価値の根源として。